米アリゾナ州で話題となっていた、州政府がビットコイン(BTC)を公的資金として導入する法案「SB-1025」は、ケイティ・ホッブス州知事が2025年5月3日に拒否権を行使し、成立が見送られました。一方、押収した仮想通貨(暗号資産)を運用する別法案「SB-1373」は引き続き審議中で、署名の行方が注目されています。目次* 1. 米初ビットコイン法案に知事が拒否権発動* 2. ビットコイン準備法案が拒否された理由 + 2.1. アリゾナ州知事が署名しなかった背景 + 2.2. 財政リスクへの懸念 + 2.3. BTC支持派の見解とコミュニティの反応* 3. 「デジタル資産戦略準備基金創設」法案が署名される可能性 + 3.1. 州政府による押収BTCの運用案 + 3.2. 押収分活用法案「SB-1373」は超党派で支持 + 3.3. 署名が注目される「SB-1373」今後の見通し## 米初ビットコイン法案に知事が拒否権発動**米アリゾナ州のケイティ・ホッブス州知事(民主党)は2025年5月3日、州政府がビットコインを公的資金で取得・保有することを認める法案「SB-1025」に拒否権を行使**しました。ブルームバーグの報道によると、ホッブス知事は同法案を2日に拒否し、ビットコインなど仮想通貨への公的資金投資を正式に認める「全米初の取り組み」が見送られることになりました。SB-1025は全米で初めて法制化される事例になると期待されていましたが、今回の拒否権行使はビットコイン支持派にとって大きな痛手となりました。州法の規定上、拒否された法案を再度成立させるには、議会で3分の2以上の再可決が必要です。しかし、**現在アリゾナ州議会で与党共和党は過半数程度の議席にとどまっており、再可決は困難**と見られています。そのため、ビットコイン準備基金の導入で先駆けとなる州は、アリゾナから仮想通貨政策に前向きなテキサス州などに移る見込みです。## ビットコイン準備法案が拒否された理由### アリゾナ州知事が署名しなかった背景ホッブス知事がSB-1025への署名を見送った背景には、**財政面と政策面での慎重な姿勢**があったとみられます。知事自身は仮想通貨そのものに反対する明確な声明を出してはいませんが、先述したように4月中旬まで予算問題をめぐりすべての法案を拒否する方針を示していたため、最初から共和党主導のこの法案の行方には不透明さがありました。ホッブス知事は2024年に提出された野党共和党の法案のうち22%に拒否権を行使しており、全米の州知事の中で最も高い拒否率を記録していた経緯があります。今回のビットコイン準備法案も共和党主導であったため、知事が予算以外の観点からも慎重に精査したものとみられます。ホッブス知事の広報担当者は法案審議中、「現時点で立場を明らかにすることはできない」としながらも、予算協議の結果次第で判断するとの姿勢を示していました。最終的に予算問題が解決した後もSB-1025への署名は行われませんでした。これは純粋に法案内容に対するリスク評価が影響したとみられます。### 財政リスクへの懸念**最大の財政面での懸念は、ビットコインをはじめとする仮想通貨の価格変動リスク**です。議会での審議段階でも民主党議員を中心に「極めてボラティリティ(価格変動性)の高い資産に公的資金を投じるべきではない」との反対意見が出ていました。仮想通貨市場の不安定さから納税者の資金が目減りする恐れや、明確な規制の枠組みがない状況で州政府が仮想通貨投資に踏み切ることへの警戒感が、慎重派の主な主張でした。ホッブス知事が拒否した具体的な理由は州政府から正式に発表されていませんが、「リスクへの懸念」や「法案の目的が不明確」といった点が背景にあると見られています。実際、SB-1025と似た「州の仮想通貨準備金」法案は他州でも提出されましたが、価格の乱高下によるリスクを避ける傾向があり、どの州でも成立していません。ホッブス知事も州財政を守る立場から、こうした懸念を重視した可能性もあります。### BTC支持派の見解とコミュニティの反応一方で、法案支持派の間ではビットコインの長期的価値に対する信頼が強調されていました。SB-1025を共同提案した共和党のウェンディ・ロジャーズ上院議員は「**ビットコインの価格変動については全く心配していない。長い目で見れば価値は常に上がっている**」と述べ、価格変動リスクへの懸念を否定しました。ロジャーズ議員はビットコインを「インフレに対するヘッジ(備え)」と表現し、法案成立によって州財政をインフレや経済変動から保護する効果が見込めると訴えています。これに対しホッブス知事は最終的に拒否権を行使しましたが、4月15日には個人が自宅でノード運用やマイニング(採掘)を自治体規制から保護する法案「HB2342」には署名しています。そのため、業界関係者の間では「次はビットコイン準備法案にも署名を」と期待の声がありました。今回の事例は、仮想通貨の激しい値動きや規制の不足が公的機関にとってなお大きな障壁となっており、州政府による仮想通貨導入への道のりが平坦ではない現実を改めて示しました。## 「デジタル資産戦略準備基金創設」法案が署名される可能性### 州政府による押収BTCの運用案SB-1025と同時に審議・可決された関連法案「SB-1373」は、州政府の「デジタル資産戦略準備基金」の創設を目的としています。SB-1373は、州が今後押収する仮想通貨や余剰金をこの基金に入れ、州財務長官が一元管理する仕組みを定めています。具体的には、**違法行為の摘発などで州が差し押さえたビットコインやステーブルコイン、NFTなどのデジタル資産を基金に集め、必要に応じて安全な保管や投資運用を行うもの**です。SB-1373でも公的資金による仮想通貨投資上限は「基金残高の10%まで」と規定されており、SB-1025と同様に投資割合の制限が設けられています。ただし**SB-1373は新規の予算支出ではなく、差し押さえ資産の有効活用に重点を置いている点が特徴**です。### 押収分活用法案「SB-1373」は超党派で支持法案を提出したマーク・フィンチェム上院議員(共和党)は「押収した仮想通貨を眠らせずに活用すれば公共の利益になる」と強調し、将来の連邦政府による規制への備えにもなると訴えていました。アリゾナ州議会での採決ではSB-1373の方が党派を超えた支持を集め、下院では賛成37・反対19とSB-1025(31対25)より幅広い支持を得て可決されました。これには一部の民主党議員も賛成票を投じたとみられ、差し押さえ資産の運用という点は支持されやすい傾向がうかがえます。### 署名が注目される「SB-1373」今後の見通しSB-1373法案は上下両院で可決されていますが、下院での修正内容について、上院側が協議委員会の設置を求めています。そのため正式に成立はしておらず、細かい調整の後に再び両院の最終承認を経て知事に送られる見通しです。SB-1373は税収を新規投入するのではなく、既存の押収資産を有効活用する内容のため、**ホッブス知事が「財政的リスクが低い」と判断すれば署名される可能性**もあります。ただし、州政府関係者からは「SB-1373も実質的にはSB-1025と狙いが同じため、一貫性を保つなら署名されないだろう」との声もあり、署名の行方には依然として不透明感があります。今後数週間内に予定される知事の判断に、国内外の関係者から大きな関心が寄せられています。>>最新の仮想通貨ニュースはこちらSource:ブルームバーグ報道 執筆・翻訳:BITTIMES 編集部 サムネイル:Shutterstockのライセンス許諾により使用
アリゾナ州知事、米初のビットコイン準備法案に拒否権を行使|押収分活用の法案は署名待ち
米アリゾナ州で話題となっていた、州政府がビットコイン(BTC)を公的資金として導入する法案「SB-1025」は、ケイティ・ホッブス州知事が2025年5月3日に拒否権を行使し、成立が見送られました。
一方、押収した仮想通貨(暗号資産)を運用する別法案「SB-1373」は引き続き審議中で、署名の行方が注目されています。
目次* 1. 米初ビットコイン法案に知事が拒否権発動
米初ビットコイン法案に知事が拒否権発動
米アリゾナ州のケイティ・ホッブス州知事(民主党)は2025年5月3日、州政府がビットコインを公的資金で取得・保有することを認める法案「SB-1025」に拒否権を行使しました。
ブルームバーグの報道によると、ホッブス知事は同法案を2日に拒否し、ビットコインなど仮想通貨への公的資金投資を正式に認める「全米初の取り組み」が見送られることになりました。
SB-1025は全米で初めて法制化される事例になると期待されていましたが、今回の拒否権行使はビットコイン支持派にとって大きな痛手となりました。
州法の規定上、拒否された法案を再度成立させるには、議会で3分の2以上の再可決が必要です。しかし、現在アリゾナ州議会で与党共和党は過半数程度の議席にとどまっており、再可決は困難と見られています。
そのため、ビットコイン準備基金の導入で先駆けとなる州は、アリゾナから仮想通貨政策に前向きなテキサス州などに移る見込みです。
ビットコイン準備法案が拒否された理由
アリゾナ州知事が署名しなかった背景
ホッブス知事がSB-1025への署名を見送った背景には、財政面と政策面での慎重な姿勢があったとみられます。
知事自身は仮想通貨そのものに反対する明確な声明を出してはいませんが、先述したように4月中旬まで予算問題をめぐりすべての法案を拒否する方針を示していたため、最初から共和党主導のこの法案の行方には不透明さがありました。
ホッブス知事は2024年に提出された野党共和党の法案のうち22%に拒否権を行使しており、全米の州知事の中で最も高い拒否率を記録していた経緯があります。
今回のビットコイン準備法案も共和党主導であったため、知事が予算以外の観点からも慎重に精査したものとみられます。
ホッブス知事の広報担当者は法案審議中、「現時点で立場を明らかにすることはできない」としながらも、予算協議の結果次第で判断するとの姿勢を示していました。
最終的に予算問題が解決した後もSB-1025への署名は行われませんでした。これは純粋に法案内容に対するリスク評価が影響したとみられます。
財政リスクへの懸念
最大の財政面での懸念は、ビットコインをはじめとする仮想通貨の価格変動リスクです。
議会での審議段階でも民主党議員を中心に「極めてボラティリティ(価格変動性)の高い資産に公的資金を投じるべきではない」との反対意見が出ていました。
仮想通貨市場の不安定さから納税者の資金が目減りする恐れや、明確な規制の枠組みがない状況で州政府が仮想通貨投資に踏み切ることへの警戒感が、慎重派の主な主張でした。
ホッブス知事が拒否した具体的な理由は州政府から正式に発表されていませんが、「リスクへの懸念」や「法案の目的が不明確」といった点が背景にあると見られています。
実際、SB-1025と似た「州の仮想通貨準備金」法案は他州でも提出されましたが、価格の乱高下によるリスクを避ける傾向があり、どの州でも成立していません。ホッブス知事も州財政を守る立場から、こうした懸念を重視した可能性もあります。
BTC支持派の見解とコミュニティの反応
一方で、法案支持派の間ではビットコインの長期的価値に対する信頼が強調されていました。
SB-1025を共同提案した共和党のウェンディ・ロジャーズ上院議員は「ビットコインの価格変動については全く心配していない。長い目で見れば価値は常に上がっている」と述べ、価格変動リスクへの懸念を否定しました。
ロジャーズ議員はビットコインを「インフレに対するヘッジ(備え)」と表現し、法案成立によって州財政をインフレや経済変動から保護する効果が見込めると訴えています。
これに対しホッブス知事は最終的に拒否権を行使しましたが、4月15日には個人が自宅でノード運用やマイニング(採掘)を自治体規制から保護する法案「HB2342」には署名しています。そのため、業界関係者の間では「次はビットコイン準備法案にも署名を」と期待の声がありました。
今回の事例は、仮想通貨の激しい値動きや規制の不足が公的機関にとってなお大きな障壁となっており、州政府による仮想通貨導入への道のりが平坦ではない現実を改めて示しました。
「デジタル資産戦略準備基金創設」法案が署名される可能性
州政府による押収BTCの運用案
SB-1025と同時に審議・可決された関連法案「SB-1373」は、州政府の「デジタル資産戦略準備基金」の創設を目的としています。
SB-1373は、州が今後押収する仮想通貨や余剰金をこの基金に入れ、州財務長官が一元管理する仕組みを定めています。
具体的には、違法行為の摘発などで州が差し押さえたビットコインやステーブルコイン、NFTなどのデジタル資産を基金に集め、必要に応じて安全な保管や投資運用を行うものです。
SB-1373でも公的資金による仮想通貨投資上限は「基金残高の10%まで」と規定されており、SB-1025と同様に投資割合の制限が設けられています。ただしSB-1373は新規の予算支出ではなく、差し押さえ資産の有効活用に重点を置いている点が特徴です。
押収分活用法案「SB-1373」は超党派で支持
法案を提出したマーク・フィンチェム上院議員(共和党)は「押収した仮想通貨を眠らせずに活用すれば公共の利益になる」と強調し、将来の連邦政府による規制への備えにもなると訴えていました。
アリゾナ州議会での採決ではSB-1373の方が党派を超えた支持を集め、下院では賛成37・反対19とSB-1025(31対25)より幅広い支持を得て可決されました。
これには一部の民主党議員も賛成票を投じたとみられ、差し押さえ資産の運用という点は支持されやすい傾向がうかがえます。
署名が注目される「SB-1373」今後の見通し
SB-1373法案は上下両院で可決されていますが、下院での修正内容について、上院側が協議委員会の設置を求めています。そのため正式に成立はしておらず、細かい調整の後に再び両院の最終承認を経て知事に送られる見通しです。
SB-1373は税収を新規投入するのではなく、既存の押収資産を有効活用する内容のため、ホッブス知事が「財政的リスクが低い」と判断すれば署名される可能性もあります。
ただし、州政府関係者からは「SB-1373も実質的にはSB-1025と狙いが同じため、一貫性を保つなら署名されないだろう」との声もあり、署名の行方には依然として不透明感があります。
今後数週間内に予定される知事の判断に、国内外の関係者から大きな関心が寄せられています。
Source:ブルームバーグ報道
執筆・翻訳:BITTIMES 編集部
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